クラシックカーの国際展示としては、世界一豪華と言われる「Salon Rétromobile/サロン・レトロモービル」は、100年以上の歴史を持ち、毎年2月にフランスのパリで開催されています。
これまで、2009年~2015年までの展示内容をご紹介してまいりましたが、本日は高まるサロン人気に応え、さらに展示会場を広げた2016年の展示内容から厳選してご紹介したいと思います。
こちらが2016年のパンフレットです。
私達がいただいたフリーパス。
これで開催期間中の5日間、いつでも自由に入ることができます。
とはいえ、平日は本職の仕事で行くことができなかったので、週末のみの使用となりました。
1.ルマン24時間耐久レース
同サロンでは、毎年幾つかのスペシャルブースが設けられますが、今年初めて拡張された2階の特設スペースに、ルマン特集としてルマン24時間耐久レースで活躍したレースカーが特別展示されました。
入口には、ルマン車を使ったアート作品が出迎えます。
歴史を彩ったレースカーが並びます。
スティーブ・マックィーンのポスターを背景に「ポルシェ908」そして「ポルシェ911」
展示会場は異なりますが、やはりルマン参戦レース車であるポルシェとジャガー車も展示されていました。
上は「ジャガーXJR-9シルクカット(1989)」下は1998年優勝した「ポルシェ911GT1」
一般会場でもフィスケンス、サザビーなど、有名どころのクラシックカーディーラーでも、こぞってルマン車を前面に押し出し展示販売していました。
こちらは「ポルシェ356カレラ・アバルト」どこかフレンチテイストなルマン車です。
2.シャルボノ・コレクション
私達の友人でもある「エルヴェ・シャルボノ氏」のコレクションが、レトロモービル2016で公開されました。
といっても、彼の父親でフランスの有名な工業デザイナー、故フィリップ・シャルボノ氏がデザインした車の一部展示になります。
シャルボノ氏は、ジェネラル・モータースからルノーへ迎え入れられ、ルノー8ゴーディニなど、数々の伝説の車のデザインを手掛けてきました。
その後、シトロエンの幹部として、パテ・マルコーニの大型バス開発事業も手掛け、その代表作品でもある大型バスが今回展示されました。
10輪トレイラ-の列車のような非常に未来的なデザインです。
この大型バスの内部には、エレベーターやレコーディングスタジオなどが備えられ、バーラウンジまであり、まさに走るリムジントラックといった斬新さで、映画の宣伝車やツール・ド・フランスのスタッフリムジンとしても利用されてきました。
パリの公共バスも彼のデザイン。
そのミニカーが展示されていました。
トラック事業では、同氏は他にこんなオーソドックスな貨物車もデザインしています。
1954年に、彼がデザインした「バルケット・サルムソン2300S」は、サルムソン社からの特注車です。
こちらのR16もシャルボノ氏のデザインです。
シャルボノ氏の未来的なデザイン車は、次章でも登場します。
3.奇怪な未来車ロムモイド
サロン・レトロモービルでは、毎回自動車を含む「動力車」に焦点を当てた特別展示を開催していますが、2016年には「ロムモイド」と呼ばれる未来的なデザインの奇妙な車が展示されました。
ロムボイドとは、4つの車輪を車軸とした菱形の4輪車ながら、360度の即時回転が可能なロボットのような未来車のことです。
【アラマニー】
最も古いアラマニーは、1947年にデザインされたアルミニウム製の前後乗車可能な車で、ゴーディニのアトリエで製造後、モンレリーサーキットでもテストドライブ済の保証付きの未来車です。
こちらがその設計図
【ピナンフェリーナX】
ロムボイド車は、開発者の発明心をくすぐるのか、これまで様々な有名デザイナーがチャレンジしてきた分野でもあります。
例えば、1960年にはフェラーリのデザイナーで有名なピナン・フェリーナグループがデザインを手がけました。
デザイナー、アルベルト・モレリによるアルミ製のエアロダイナミクスなデザインは、「ピナンフェリーナX」と名付けられフェラーリを彷彿させます。
【オートモデュール】
いかにもSF映画で使われてそうなロボットのようなこの車は、ジャン・ピエール・ポンチューが1968年にデザインした「オートモデュール」と呼ばれる宣伝用のロムボイド車です。
【エリプシス】
第2章でご紹介した工業デザイナーのシャルボノ氏もロムボイド開発に取り組みました。1990年に彼が完成させた「エリプシス」と呼ばれるロムボイド車は、初めて通行人への衝撃を緩和するガードクッションゴムを搭載して話題となりました。
【シティミニ】
同じくシャルボノ氏が、1996年にも「シティミニ」という電気仕様のロムボイド車をデザインしました。
都会では重宝しそうな小回りの良さです。
4.優雅な過去の馬車
未来車をご紹介した後は、今度は過去の車「馬車」が登場します。
この年のサロン・レトロモービルでは、パリ北郊外の「コンピエーニュ城」内の馬車博物館から、数代の歴史的な馬車が3台展示されました。
【式典用大統領公用馬車】
ニコラス2世が、1886年フランス訪問に使われた馬車でパリのミュールバッハー社が制作しました。
【ラ・ディリジェンス】
蒸気動力はボエレ社、外装はミュールバッハ-社が手掛けた蒸気搭載馬車です。
【ラ・マンセル】
1878年のエキスポで紹介された蒸気搭載馬車。
動力はボエレ社が担当しています。
5.英国ボーリューコレクション
レトロモービル2016では、英国のハンプシャー州ボーリューにある自動車博物館から、スピード記録を持つ3台のクラシックカーが特別展示されました。
【ナピエ1903】
1903年のゴルドン・ベネットカップで、覇者となり英国レースの先駆けとして登場したナピエ車は、アメリカ製の同車を1904年から1912年まで製造販売しました。
【ダラックV8】
1897年に、フランスのシュレンヌで誕生したダラック工房は、1905年にV8エンジン・25.5L・200馬力の車を開発し、1906年にはフロリダで時速197kmの公式記録を達成しました。
同社は1920年にタルボ・ダラックに、その2年後にタルボに吸収され、同マークが消滅する1935年まで存続しました。
【フィアットS76】
4シリンダー30Lのエンジンを搭載したフロント部分は高さ1.6mにもなり、正面の視界が悪いため道路の脇を見ながら運転しなければならないというドライバーには不親切な自動車。
300馬力重さ1トンというエンジンを携え、1913年には時速210kmを達成しました。
6.その他の特別展示
【タフタフクラブ】
なんだか丈夫そうなお茶目なネーミングですが、この年創立100周年を迎えたフランスの古参クラシックカークラブの名前です。
この年100周年を記念して、クラブ所蔵のレアなクラシックカーが数台会場に持ち込まれました。
その一つが「グレゴワータイプ70/4」。1910年製造で大きなタイヤと軽量なボディでオシャレなスポーツカーとして人気を博し、過去にはロランギャロスのスポンサーにもなっています。
手前は「リシャール・ブラジエHタイプ」。
1903年製でフロントエンジンを搭載、エドワーディアン調の装飾と快適な乗り心地は、優雅なベルエポックにぴったりです。
後ろは「ブルオDタイプ」。
1908年製でその気品漂う風貌から「ベルギーの王様」と呼ばれていました。
【戦車】
フランスソミュール地方の戦車博物館から、戦車「T34」が出展されました。
ロシア製の戦車は、第2次世界大戦でドイツ国境でドイツ軍追放に活躍、1996年に製造終了になるまで22,500台製造されました。
【グランツーリスモ】
ソニーが販売を手掛ける日本のゲーム会社「ポリフォニー・デジタル社」が開発している「グランツーリスモ・スポーツ」シリーズで、その前年発表されたルノーアルピーヌの復活ニュースの影響か、アルピーヌのコンセプトカーを公式収録車として制作し、そのアルピーヌ車が、この年のレトロモービルで展示されました。
アルピーヌ復活を喜ぶファンが多いフランスで、このコンセプトゲームカーは常時人だかりができ、大人気を博していました。
7.個性的なスタンド
世界一ゴージャスな「サロン・レトロモービル」では、世界中の目の肥えたお客様を迎えるため、ひときわ目立つスタンドを構えてお客様の目を惹きつけます。
まだまだ車が続きますので、この辺でちょっと一休み、会場散策中に目についたスタンドをご紹介します。
保険会社はスタイリッシュな「ジャガーType-E」を携えて。
アメ車のイベントを主催する「アメリカン・ツール・フェスティバル」のスタンドでは、ダイナミックなアメ車のクラシックカーや大型バイクで人足を止めます。
輝くハーレー風バイクに、フォードムスタングのラリー仕様車を配して。
ホンダブースは、過去にも見かけたフランスの八百屋さんに「S800」を配して。
ルマンブースは、優勝車「プジョー905」を配して。
ロワイヤルな町シャンティイのクラブのブースは、優雅なイラストと可憐な花で華麗に装飾。
ブガッティがオールディーズなガレージから出てくる演出。
スタンド設置でらしさを出しているレースクラブには、可愛いミニを搭載。
その他、幾つかのスタンドで華やかなフラワーアレンジが目立ちました。
8.フランス車
華やかなスタンドで目休みした後は、再びヨーロッパのラグジュアリーな車たちを見て行きましょう。
まずは、地元フランス車から見てまいりましょう。
【ルノー】
フランス車はまずはルノーからご紹介します。
F1シリーズも勢揃い。
手前の黄色い車体は、アラン・プロストが1982年に乗って勝利した車です。
他に、手前からFE、F1-R26などが並びます。
モノプラスの奥に、人だかりができているのがルマン1978年優勝した「アルピーヌ442」
ルノースタンドで注目の一台が「ルノーエトワールフィラント」
1956年にガスタービンエンジンで時速308kmの記録を残しています。
フィラントの後ろの40CVは9000㎤のエンジンを搭載し、1926年に時速190kmの記録を出しています。
「ルノーAK」は、1906年にルノー車として初めてルマンで勝利した歴史的な車です。
「ルノー17グループV」は、1972-1975年にかけて、ジャン・リュック・テリエなどの伝説のドライバーが運転して活躍したラリー車です。
1982年のパリダカールで優勝した「ルノー20四駆」
「ルノー21ターボ1987」は、伝説のドライバーラニョッティらの功績で、ラリー優勝を重ねてきました。
ラニョッティが、運転して英国レースなどでも活躍した「アルピーヌ310」も展示されています。
その他、FJクラブのスタンドでは、「ルノー5ターボ」が展示されていました。
【シトロエン】
他のフランス車では、非常に珍しい「シトロエンDS-19GTボサール」
シトロエンとい言えば、日本のシトロエンクラシックカー業界では、有名な友人がレトロモービルに来られ、こちらのシトロエンのカレンダーを下さいました。
有名なイラストレーター今村氏によるものです。
【プジョー】
日本の拙友人も所有し、フランスでも超レアな「プジョー205T16」
プジョーでレストアを待つ戦前の「プジョー車ハリス・レオン・レンヌRタイプ」は1931年製。
9.イタリア車
デザインと言えばイタリア車。
スタイリッシュなイタリア車をご紹介します。
【フェラーリ】
イタリア車と言えばまずはフェラーリから。
「フェラーリディノ」のプロトタイプが展示されていました。
「フェラーリ250-GT」と「フェラーリ328-GTB」
こちらも「フェラーリ328」
トリコロールが洒落ている「フェラーリ275」
「フェラーリデイトナ」「テスタロッサ」など。
フェラーリ初期の超レアな「フェラーリ212」
【マゼラッティ】
フェラーリ以外では流線形とシルバーブルーが美しい「マゼラッティジブリ」
サザビーのオークションにかけられていた黄金に輝く「マゼラッティ・ボラ1974」
【ブガッティ】
ブガッティも元はイタリア車。
オーソドックスなクラシックカーのほか
最新の「ブガッティ・シロン」も展示されていました。
【その他】
流線形の「ビッザリーニ」
いかにもイタリアンな赤と、シャープなデザインの「デトマソパンテラ」
「ランボルギーニミウラ」
他のイタリア車ランシアも忘れてはなりません。
「ランシアモンテカルロ037のスケルトン」
10.ドイツ車
メカニックと信頼性では太鼓判のドイツ車です。
【メルセデス】
この年は、ベンツEクラスが生誕40周年を迎えたメルセデスから紹介してまいりましょう。
2016年に、生誕60周年を迎えた「メルセデス300SCロードスターW188(1956)」
2017年に、60歳を迎えた「メルセデス300SLロードスターW198(1957)」
「メルセデス280SE3.5カブリオレW111(1970)」
他のスタンドで見かけた羽ばたきドアも「メルセデス300SLパピヨン」
メルセデスは古い戦前車も展示していました。
「メルセデス28/95ファートン」
【ポルシェ】
ラフ塗装とピカピカグレーの「ポルシェ356」
70年代オレンジカラーが美しい「ポルシェ911」
オークションに出されていた虹色の「ポルシェ997」
ルマンでも活躍した「ポルシェ904」
【その他】
ボッシュが手掛けた「VWコンビ」
ロゴを変えています。
ドアがパピヨン型に開くVWのプロトタイプ「ハイブリドゥ」
ゴルフGTIやBMWは、近年フランスで人気急上昇のヤングタイマー族に大ブームとなっています。
11.英国車
ノーブルさでは、突出している英国車をご紹介します。
【ジャガー】
英国クラシックカーを代表する気品あふれるジャガー。
アメリカネバダ州で発見された、「Eタイプシリーズ1」がそのままのマット塗装で出展されていました。
オリジナルエンジン搭載のEタイプシリーズ1「バーンファインド」
クラシックカークラブでも「ジャガーEタイプ」がずらり。
【ベントレー】
ツートンカラーが美しい高級車ベントレー
戦前ルマンレースで活躍した「ベントレー8Lルマン-4タイプシータースポーツ」
【その他】
クラシカルなMGの戦前車
ロータスが1955年に製造した「プロトタイプMK-VIII」はまるで漫画の世界でした。
12.アメ車
アメ車人気が高まるフランスでは、レトロモービルでも特別展示は不可欠です。
【フォード】
「フォードグラントリノ」
「フォードP68 F3L(1968)」
「フォードGT40 MKII」は生誕50周年
【その他】
「ACコブラハードトップ」
13.インパクトあるレストア展示
サロン・レトロモービルの会場では、クラシックカーメンテには欠かせないレストア専門の会社も多々出展していました。
その中で、人目を惹くインパクトのある展示努力をしていた会社をご紹介します。
2015年のレトロモービルの目玉であった、廃墟から見つかったクラシックカーコクレションのオークションで、落札された「タルボ・ラゴT26」のレストア途中経過の本体が展示されていました。
その手前には廃墟で見つかったままの状態の写真が展示されていました。
塗装業者の技術をアピールするため、ランシアのビフォーアフターを公開。
半分がビフォー、半分がアフターとまっぷたつに分けて塗装。かなり説得力があります。
14.芸術展示
サロン・レトロモービルの芸術ブースで展示された中で、気になったものをピックアップしてみました。
キャロリーヌ・ボケのペイントアート。インテリアの飾りとしても使えます。
個人的に好みのラウル・Wのブース。
イベントで利用されそうな斬新なアートが並びます。
ラウルを有名にしたミニカーアート。
ミニカーを集めただけのような作品ですが、これで400万円は下りません。
車の部品を使った独創的な作品群には思わず足が止まります。
動力であれば飛行機、列車、船もコレクショナーには垂涎の的です。
15.その他のトピックス
会場入り口は職工ブース、雑貨ブースがひしめき合っています。
ルート66ムードの雑貨店、インパクトで客を惹きつける商魂で訪れる人を楽しませてくれます。
ルノー12が陳列されていたスタンドで、こんな雑誌撮影をしてくれました。
まるで雑誌を飾る主人公になった気分です。
友人のスタンドには今やお友達の人気レーサー、ラニョッティ氏が遊びに来ていろいろお話しを楽しみました。
とてもチャーミングなレーサーです。
私達は、会場のお手伝いをしているので最後まで残って後片付けもしましたが、毎回閉館後は展示物が一斉に取り払われ、展示されていたクラシックカーが往来し慌ただしい後片付けが始まります。
華やかな展示会場が一瞬に「祭の跡」といった殺風景な風景に変わります。
後片付け中の知り合いが手を振ってくれました。
横のクラシックカーは彼のもの(他にも20台ほど所有)で、以前この車で彼と一緒に5Lレースに出場しました。
以上「サロン・レトロモービル2016ダイジェスト」如何でしたか?
長い間お付き合い下さり有難うございました。
日本でも近年同様のレトロモービルイベントが始まりましたが、歴史あるフランスのサロンは日本とは異なるコアな展示も多く、毎回新しい発見があるため、飽きることなくクラシックカーファンは、何日でも滞在できるドリームランドです。
クラシックカーファンなら一生に一度は訪れる価値のあるイベントへ、是非出かけてみませんか?