クラシックカーの国際展示としては世界一豪華と言われる「Salon Rétromobile/サロン・レトロモービル」は100年以上の歴史を持ち、毎年2月にフランスのパリで開催されています。
前回はサロンの歴史と共に2014年までのダイジェスト版を一気にご紹介しましたが、毎年の展示内容が話題性の富んだものが多いため、今回は開催40周年目を迎えた2015年の展示内容から話題性のあるものを選んでご紹介します。
廃城に眠っていた59台のクラシックカーがオークションで完売
この年のレトロモービルで話題をさらったのが、Roger Baillon/ロジェ・バイヨンのコレクションの初公開オークション。
バイヨン氏の城に人知れず眠っていた戦前戦後の名車59台の廃車を、息子ジャックの孫が2013年に偶然発見し、高級クラシックカーを扱う大手ディラーArtcurial社の仲介で全て売りに出されることになったのです。
【所有者バイヨン親子】
歴史はバイヨン親子に遡ります。
父親のロジェはフランスのブルゴーニュ南部にある二オール市で、複数の輸送会社を営む裕福なビジネスマンで、戦後は息子のジャックと共に廃車のクラシックカーを200台以上集めていました。
当時は戦前車も格安で手に入り、ほとんどは「鉄資源」への換金目的で「スクラップ用に」収集されていたもので、シュルンプなどの有名なクラシックカーコレクターとは一線を画していました。
それでもバイヨンのコレクションの中には、ドラージュ、ドラエ、タルボラゴ、ヴォワザンといった、絶版となっている戦前の名車が溢れていました。
しかし1970年代にバイヨン親子の会社経営が悪化、クラシックカーを売却することになり、2社の業者が1979年~85年にかけて約100台以上もの名車を買い取っていきました。
ロジェの夢であった「博物館建設」の夢はあっけなく崩れ、まだ数十台のお宝は人知れず隠されていたものの、長年完全放棄された状態だったため、錆、室内への昆虫や植物による腐食腐廃といった惨状は避けられませんでした。
【孫の決断】
息子のジャックもその後早逝し、長年封印されていた「ロジェのアリババ」をジャックの孫が2013年に偶然発見。
突然現れた「遺産」に戸惑う孫は、腐敗は進んでいるものの、今では希少な名車ばかりだったためクラシックカーディーラーのArtcurial社にその処理を依頼。
アリババを訪れた同社の社員が、歴史が止まったままの圧巻の状態に感動し、この感動をそのまま愛好家に伝えたいと、今回のレトロモービルでの「そのまま展示」の企画が誕生したわけです。
コレクション展示とオークション落札価格
ロジェーコレクションは場外にある特設会場で特別展示として公開され、これらの車は全てレトロモービルサロンの最終日にオークションで転売されたのですが、全てが予想以上の高値で落札されました。
そんな落札価格情報も踏まえ、コレクションの全貌の一部をご紹介します。(価格は2017年現在1€=130円でご換算下さい。)
入り口には大きなポスターがお出迎え。右がこの展示の目玉、フェラーリ250カリフォルニア、左はマセラッティ。
特別展示の主催者であるは高級クラシックカーを扱うArtcurial社は発見当時のそのままの感動を伝えるべく、埃をかぶったまま、タイムトンネルのような薄暗い会場で展示することにしました。
真ん中は「シトロエン/Citroën Type C 5 HP torpédo "trèfle" 1924」23840€で落札。
その後ろは「シンガーロードスター/Singer roadster 1500」 で、10440 €で落札。
まさにアリババの洞窟を発掘するようなワクワク感のあるこの薄暗さは、同時に希少なクラシックカーの息づかいが聞こえるようです。
「Mathis Emysix Type SMO faux-cabriolet - ca 1930」は33376€。
「パナール/Panhard et Levassor Dynamic X76 Coupé Junior - ca 1936」は56024€。
「ロレーヌ/Lorraine B3-6 torpédo Grummer」は53640€。
手前の「Singer roadster 1500」は上出、後ろの「Renault 12 CV Type EU torpédo - ca 1918」は15496€で落札。
「ドライエ/Delahaye Type 43 camion-plateau – 1911」は25032€。
エジプトの王様が所有していた「タルボ・ラーゴ/Talbot Lago T26 Grand Sport SWB par Saoutchik – 1949」もかなりの高値がつき、1702000€で落札されました。
モダンなクラシックカー「フェラーリ/Ferrari 308 GTSi – 1982」も埃まみれながら33376€で落札。
ポスターにも描かれた展示の目玉の一つ、「マセラッティ/Maserati A6G 2000 Gran Sport Berlinetta Frua – 1956」は1962400€。
埃を取って綺麗に磨けばこんな感じ。
と、化粧後の写真も展示されていました。
フランスの高級車「エクセレンス/Facel Excellence – 1960」は139200€。内部もレストアすればなんとかなりそうな状態。
「タルボ・ラーゴ/Talbot Lago T26 Record Cabriolet par Saoutchik – 1948」は725000€。
さて、この展示の一番の目玉物件が会場の真ん中の回転スペースにスポットライトを浴びて展示されていました。
アランドロンが所有した「フェラーリ250 GT SWB California Spider – 1961」
これはアラン・ドロンが1963年~65年まで実際に所有していた「フェラーリ/Ferrari 250 GT SWB California Spider – 1961」このフェラーリはレトロモービル史上最高値の16288000€/約21億円で落札されました。
お城が21個分てところでしょうか、、、、。
「タルボ・ラーゴ/Talbot Lago T26 Record Fastback Coupé par Saoutchik」は417200€。
「ドライエ/Delahaye GFA 148 L limousine Guilloré - ca 1949」は30992€。
そして走る宝石ブガッティも登場。「ブガッティ/Bugatti Type 57 – 1937」が298000€
「Sandford Type S cyclecar」は59600€。
「アミルカー/Amilcar CGSS biplace sport - ca 1927」は54832€。
「ドラージュ/Delage D8 - 15 S coach Autobineau - ca 1930」はタイヤなどボロボロですが、125160€で落札。
以上私が撮影した車種のみご紹介しましたが、未撮影のものも含めて合計59台展示され、オークションでは59台全車完売、その落札価格の総額は25.15億€ (約34億円=城34個分)でした。
異次元の世界に迷い込んだような幻想空間を満喫してきましたが、お値段も幻想空間、、、、。
鉄くずにしかならないようなオンボロ車にここまで投資する愛好家たちの存在が、クラシックカーの伝統を長く根付かせ、ヨーロッパ文化のエスプリに欠かせない存在だと、その秘密を垣間見た思いです。
誕生周年を迎えたクラシックカーたち
2015年に誕生周年を迎え特別展示が行われたのが、シトロエンDS、ルノー16、プジョー604でした。
60周年を迎えたシトロエンDSは大きな広告パネルを展示し、沢山のDSが出そろっていました。
誕生50周年のルノー16もルノー本拠地のルノークラシックブースで大量のルノー16が出陣していました。
クラシックカー特別展示。サロンレトロモービル2015
【エンゾ・フェラーリに挑んだスペインの旗手】
アルファ・ロメオの技術部長だったスペイン人ウィルフレド・リカールが、フェラーリの創始者エンゾ・フェラーリと技術面の食い違いによる確執を生み、リカールは自身で高級スポーツカー製造会社「Pegaso/ペガソ」を1946年に設立。
以来フェラーリを挑発するライバルとして、軽量のスポーツカーを生産してきました。
その中でも人気だったのがペガソ/PegasoZ102シリーズ。
しかし1956年に出したZ103シリーズが不発となり、1958年には製造が中止、会社も倒産して現在では84台のPegaso車を世に残すのみとなりました。
100年前の車で世界一周した夫婦
2015年から100年前の1915年製造の「フォードT」で世界一周をしているオランダ人夫婦が招待展示されていました。
ご夫婦が丁寧に説明してくれ、いろいろお話しを楽しみました。
旅は2012年からアフリカ大陸を皮切りに、北米、南米大陸を経て現在欧州で補給期間中とのこと。
翌年には欧州~アジア大陸へ向かう予定とのこと。
日本にも立ち寄るそうで、是非日本旅を満喫してほしいものです。
歴史ある戦車を試運転
屋内展示場ダッソー社が製造した戦車「Tigre Royal/ティグル・ロワイヤル」が特別展示されていましたが、屋外ではもう一つの戦車AMX30が展示されていました。
同戦車は1966年から2011年まで現役で活躍し、引退後はソミュールの軍事博物館に展示されています。屋外展示場では実際に乗車して試運転ができるイベントも人気でした。
その他のクラシックカーの展示「サロンレトロモービル2015」
【スポーツカー系】
フランスでも超レアで貴重な伝説のラリー車、プジョーT16が展示されていたので、同車を所有する日本の友人のために撮影しました。
モンテカルロラリーのブースでは、この年はポルシェ911が特別展示されていました。
こちらのポルシェはレースカー
アグレッシブなフォードムスタング。フランスでもアメ車は人気です。
ノーブルなフェラーリがノーブルな白い花に囲まれて優雅な空気に包まれていました。
シャープラインのヨーロピアンなかほりのする高級スポーツカーも勢揃いしていました。
オレンジのマセラッティギブリ
ランボルギーニエスパーダ
メルセデスC111
フェラーリ308アート外装仕様
可愛いけれどスポーティブなターボメカもいました。
【クラシック系】
珍しいチェコスロヴァキアの高級ブランド車「タトラ」が展示されていました。
英国の高級車ベントレーの戦前車は、イングリッシュグリーンがさらに気品を醸します。
タルボ・ラゴかドラエ系の戦前車は、配色のセンスが絶妙です。
【アート】
サロン・レトロモービルには車の展示の他に、部品・雑貨・ミニカーなどの販売ブースが多数設けられ、またアート展示場では車に関するアート作家が各自のブースを設けて、作品をアピールしています。
個人的にお気に入りで、毎年注目を浴びるRaoul. Wのブースでは、人気のミニカー額縁アートの他、メタルの骨組み作品も展示されていました。
六本木ヒルズにあるルイーズ・ブルジョワの巨大蜘蛛みたいな蜘蛛アートもあったり、手前のガンダムもどきは灯油ボックスで作られたリサイクル作品。確かに「燃える闘志」は伝わってきます。
以上「サロン・レトロモービル2015ダイジェスト」如何でしたか?
毎年中味はてんこ盛りですが、このイベントでは毎年あるお手伝いをしているためゆっくり周る時間がなく、撮影画像も少ないためご紹介できるのはほんの一部ですが、今後も2016、2017年版と濃密なエッセンスを凝縮してご紹介していければと願っています。
古き良き時代に思いを馳せて、少年時代の純粋な気持ちに戻れるサロン・レトロモービルに、欧州旅行の際是非立ち寄られてはいかがでしょう。